猛き箱舟

猛き箱舟〈上〉
猛き箱舟〈上〉
posted with amazlet on 07.05.25
船戸 与一
集英社 (1997/05)
売り上げランキング: 105567


装丁のデザインが、間違ってるだろ。
というのが、読み終えて一番最初に思った感想だった。
と、思ったら、その日に
有名な装丁のデザイナの方がTVに出ていた。
影響されたんだろ? みたいなタイミング。


まあ、黒地に銃が二丁のデザインは、
この本にはまったくあっていませんよ。ということで。
これでは、やくざのチンピラものに思える。
序盤はそういった面もあるのだが、
全体的に見えれば、一人の男の信条と生き様なのだ。
私利私欲をかっこ良く見せようとするチンピラ話とは全く違う。
上巻、下巻に分かれており、
まだ上巻だけを読了した段階なのだが、そう思った。


同じ言葉がすぐ近くで繰り返されていたりと、
文章的なスキルは荒々しい(うまい、ヘタではなく)のだが、
一人称なのに、徹底された客観は、非常に魅力的だった。
小説の世界では使い古されている表現なのに、
記述が細かくしっかりしているものだから、読みづらくない。
よって、どっぷりと浸れる。リアリティが増す。


ストーリィも、今となっては別に斬新ではないのだ。
だが、上記した「信条」と「客観性」によって、
決して退屈にはならない。
緻密に書き込まれた風景画を眺めているような気になる。


下巻はまだだけど、この時点で傑作と呼んでいいだろう。


★★★★★